星と月と恋の話
…生地の、何が関係あるの?

って言うか、生地って何の生地のこと?

ま、まさかじゃないけど。

「き、生地ってどういうこと?」

「洋服の生地です。僕の私服って、大抵自分で縫ってるものなので」

や、やっぱり!

お弁当を、いつも自分で作ってるだけでもびっくりしてたのに。

私服を自分で縫ってるって、それはもう君…。

…プロだよ。

その手は、多分魔法の手だ。

「料理だけじゃなくて…お裁縫まで出来るの…!?」

並みの女子より、よっぽど女子力が高い。

いや、例え女子でも、洋服を自分で縫えるほど裁縫が得意な女子なんて滅多にいないよ。

そういうお仕事でもしてない限り。

「いや、僕が縫う服なんて、大したことないですよ」

何謙遜しちゃってるの。

冷静に考えたら、私なんて、ボタン付けさえ怪しい。

…女子力皆無だな。私。

「それに、1から作ってるものは少ないんですよ。傷んだ古着をもらってきて、それをリメイクしたり…」

服のリメイクって、何よ。

1から作るより難しそうじゃないの。

「そのコートもそうなんですけど。知り合いの古着屋に古着を回してもらって、それを直したり、継ぎを当てたりして…」
 
「あ、それでこんな模様なんだ…」

「はい。元々うちは…母が和裁で生計を立てているので」

そ…そうだったんだ。

…なんか格好良くない?

私も言ってみたい。「うちのお母さん、和裁で生計立ててるんだ」って言ってみたい。

失礼かもしれないけどと。

成程、結月君の服に和柄が多いのは、そういうことだったんだね。

着物の生地の端切れを使って、洋服に直してるから。

結月君の趣味なのかと思った。

「だから普段の私服も、母が作ったものだったり、僕が作ったものだったり…。自分で作ると下手なので恥ずかしいんですけど」

「下手って…。でもこのコートって、結月君が直したものなんでしょ?」

「あ、はい、そうです」

だったら、充分上手いじゃないの。

ボタン付けさえ怪しい私に喧嘩を売ってるのかしら。

「実は学校の制服も、生地だけ学校で買って、仕立ては全部母なんですよね」

「す、凄い…」

思い出す。入学前、星屑学園の制服を採寸しに行ったとき。

仕立ててあるものを買うか、それとも生地だけ買いますか?って聞かれて。

生地だけ買ってどうするのよwなんて思いながら、当然うちは、業者が仕立てた制服を買ったけど。

結月君みたいな家庭があるから、生地だけ販売してるのね。

草を生やしてる私が馬鹿だった。

結月君の制服、市販品と全然見分けがつかない。

それにこのコートだって、売り物だよって言われても全然違和感ないもの。

単に、こういうデザインのコートなのかなって思う。

凄い…凄過ぎる。

料理も出来て、裁縫も出来る。

才能の塊だ。 

「…まぁ、新品の私服を買う余裕がないので、そんな風にしてるだけなんですけどね」

「ううん。立派だと思うよ」

私服がダサいなんて、勝手に思っててごめんなさい。

ダサくなかった。めちゃくちゃ格好良かった。

ファッション誌に載ってるブランド物のスカートを欲しがっては、溜め息をついている自分が情けなく思える。

あ、そうだ。

良いこと思いついた。
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