星と月と恋の話
じくじくと痛む靴ずれに耐えながら、私は何とか山頂に辿り着いた。

「着きましたよ。ここが山頂です」

「ほ、ほぇ〜…そっか…」

「ほら、展望台もあります。綺麗ですね。ずっと先まで紅葉が見えますよ」

結月君は、満足そうに紅葉を見ていたけど。

正直、私はそれどころではなかった。

うぅ、足が痛い…。何処でも良いから、とにかく早く座りたかった。

目の前には折角絶景が広がっているというのに。

靴ずれの痛みは、絶景の感動すら消し去るのだと知った。

風情も糞もない。ごめんね。

「写真とか、撮らなくて大丈夫ですか?」

と、尋ねる結月君。

そうね。普段の私だったら、ここぞとばかりにスマホを取り出して、写真を撮りまくり、Twittersにアップするところなんだけど…。
 
…今、それどころじゃない。

「う、うん、そうね…。写真…後で撮るよ…」

「…」

結月君は、無言で私を見つめ。

ずんずんずん、と私の方に歩いてきた。

え…え?

「ど、どうしたの?」

「…いえ。なんか星ちゃんさん、さっきから様子がおかしいような気がして…」

ぎくっ。

な、何でそんなに目敏いの。

「どうかしたんですか?」

「な、何でもない。何でもないよ」

「…?まだ寒いですか?」

「う、ううん。寒くないよ…」

そう。寒くはない。

寒くはないけど、ちょっと足が…。

結月君にじーっと見つめられている、その視線の圧が重くて。

思わず、一歩後ずさりしてしまいそうになった、そのとき。

迂闊にも、私は小石に躓いて、その場に転びかけた。

「ひゃあ!?」

「!大丈夫ですか!?」

慌てて、結月君が両手を差し出し。

私を抱き留めるようにして、転ばないよう支えてくれた。

お陰で、すってんころりんと転ばずには済んだけど。

その代わり、靴ずれの足を地面に擦りつける結果になって。

「痛っ…!いたたた…」

思わず顔をしかめて、私は痛みの声をあげた。

「えっ…。だ、大丈夫ですか?何処を痛めたんですか?」

ぎくっ。

「だ、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけ…」

「でも、顔が青いですよ。何処か痛いんですよね?」

「そ、そんなこと…。…痛っ」

慌てて否定しようとした、その矢先。

特に痛みの酷かった左足の爪先が、ズキッ、と痛んだ。

どうやら、さっき転びかけたことで傷が広がってしまったらしい。

…こうなってしまっては。

最早、隠すことは不可能だった。

「ちょ、ちょっと座りましょう。肩貸しますから、掴まって」

「あう、ちょ、恥ずかし、」

「恥ずかしがってる場合じゃないですから」

ごもっとも。

こうして。

私は無様にも、結月君の前で、靴ずれの爪先を晒すことになってしまったのだった。
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