童貞を奪った責任
「ねえ、ちょっといい?」
そう彼に尋ねたのは、屋敷に帰ってきてから数週間が経過した頃であった。
仕事終わり屋敷へと帰宅し、二人して並んで一息吐いていた時に、ふと言いたかった事を告げてみた。
「ずっと、詠斗は“俺の女”とか言っちゃってるけど、私なったつもり無いんだよね。」
「は?何を今更。」
「だって、付き合ってとも言われてないし、色々端折ってるし....。」
身体から始まって、身体で完結している私達の曖昧な関係。
今は一緒に住んじゃってるけれど、デートの一つもしたことないし、ただ私の事を一方的に愛する彼。
流されてここまで来たけれど、やっぱりはっきりさせたいのだ。
「付き合うも何も、俺の童貞奪っといて何を言ってんだか。」
「...んな!!」
「俺は初めに言ったよな?お前以外の女を抱くつもりは無いって、」
一瞬考え込み記憶を辿ってみれば、嗚呼確かにそんな事言ってたっけ?なんて思い出すのだ。
「最初から最後まで、俺にはお前だけなんだよ。」
「そんな事言われても....。」
「往生際が悪いな。別にこれから一生、死ぬまでお前と一緒に過ごすんだから、交際期間は要らないだろ。なんなら俺は今すぐにでも役所に行って、婚姻届出してーぐらいだわ。」
童貞を奪われた男は、奪った私と共に一生を過ごしたいと告げてきた。
私以外の女は不要らしい。
「いや待って、私的には心の準備と言いますか....仮にもヤクザと結婚なんて、そんなの荷が重すぎる....」
「それなら待ってやるよ、お前が俺と結婚したいって言うまで.....」
何と言いますか、折れたのは詠斗の方なんだけど、何故か行き着く先の選択肢は一つしか提案されないみたいです。