童貞を奪った責任
その日を境に、詠斗は私とデートをしてくれるようになった。
仕事終わりに一緒に映画館に行ったり、美味しいディナーを食べにレストランに連れてってくれたり....。
普段の黒塗りセダンとは別のスポーツカーに乗り、詠斗の運転で向う夜景スポットは、とても素敵だった。
こっちの車のナンバーは【・・・8】で、『やっぱりな!!』とやはり主張の激しい彼に、笑いが込み上げてきた。
―――――あ、忘れてたけど、屋敷に戻ってきてから程無くして七海さんが会いに来た。
「杏ちゃん会いたかったよ~。俺と結婚しようか。」
嵐の如くやって来た七海さんは、やっぱり私を口説いてくるのだけど、彼の鼻には目立つ程の縫い傷があって、それは痛々しいものであった。
「うっせーナナ。杏を口説くんじゃねーよ。帰れゴミ。」
相変わらず詠斗に蹴落とされ、吹っ飛んだ彼だけど、めげない心には感心しつつも有難迷惑である。
あとで聞いた話によると、七海さんの鼻は詠斗によって折られたらしい。
私が貧血で入院した日、即ち私が逃亡を図った日に、ひとりにしてしまった事を怒った詠斗が、キレてボコボコにしたとか、なんとか....。
申し訳ございませんでした‼︎と心の中で謝る。直接謝ったら、きっと詠斗が不機嫌になって、どうせ....
『謝んなくていい、こいつの落とし前だ。』って言いそうだから、事の事態を知った時に、触れないでおこうと心に決めたのだ。