童貞を奪った責任
親父から俺に七代目の座が渡ったのは、ほんの数ヶ月だったと思う。
とりあえず引き継ぎ云々もあったが為に、公式的な場は設けられなかった。
暴力団山田組。それが俺の生きる道。そこ以外には行き場は無いと思っていた。
だから何をしたって、俺はここに帰ってこれるのだと思い過ごしていたんだ。
「お前が孕ませた女が誰か分かった上で、やったのか?」
「....。」
親父は昔から怖い存在である。
組の事務所で、ソファーに座りながら俺を見下ろす親父。そして、俺はと言えば、呼び出されて、床に正座。
仮の七代目就任を目前に抱いた女が、実は他の組の女だった事が判明したのだ。
まあ、出来ちゃった。ってやつ。
「詫び入れに行かにゃならねえ。お前指詰めろ。」
それは脅しでは無く、命令に程近い。
ドスの効いた親父に、俺は全身から冷や汗が止まらなかった。
「それか、お前は組から破門だ。」
親父はなんだかんだ言って、息子に甘かった。
ーーーー究極の二択。
指を差し出して罪を償うか、家を追い出されるか。
絶対なんて有り得ない。
いつ、どのタイミングで、陥れられるかなんて、この世界はざらにある。
弱味を見せれば、直ぐに足元を掬われる。