童貞を奪った責任
お馴染みの運転手の強面さんに連れられて、辿り着いたのは、度肝を抜く大きなビル。
「あの....本当にここですか?」
「はい。」
「隣の廃ビルとかじゃないですよね?ね?」
ルームミラー越しに、哀れみの視線を向けられてしまった。
私が勤めていた会社の近くに建つ綺麗なビル。
その真横には、解体前の廃れたビル。
ヤクザの事務所が入ってそうなその場所から、ゆっくりと視線をずらす。
「姐さん、若頭には連絡入れてますんで、受付に言えば通してくれますよ。」
とは言われたものの....久々に会社という会社に足を運ぶこととなった訳で、ひよるのは当たり前。
普段着のダル着姿。最早パジャマに程近い格好でやって来てしまった事を後悔した。
綺麗なエントランスを不審者の如く周囲を眺めながら、受付嬢が控えるカウンターへと向かう。
「こんにちは、本日アポイントの方はお取りになっていますでしょうか?」
「あー。一応?旦那にお弁当届けに来たんですが....」
「かしこまりました。旦那様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
「....織田 詠斗ですっ。」
あ・・・っと、綺麗な受付嬢さんが、漏らした時、何を思ったのか、私を舐める様に....と言うか、疑う様な視線を送って来たのだ。