童貞を奪った責任



 お馴染みの運転手の強面さんに連れられて、辿り着いたのは、度肝を抜く大きなビル。



「あの....本当にここですか?」

「はい。」

「隣の廃ビルとかじゃないですよね?ね?」



 ルームミラー越しに、哀れみの視線を向けられてしまった。



 私が勤めていた会社の近くに建つ綺麗なビル。

 その真横には、解体前の廃れたビル。


 ヤクザの事務所が入ってそうなその場所から、ゆっくりと視線をずらす。




「姐さん、若頭には連絡入れてますんで、受付に言えば通してくれますよ。」









 とは言われたものの....久々に会社という会社に足を運ぶこととなった訳で、ひよるのは当たり前。


 普段着のダル着姿。最早パジャマに程近い格好でやって来てしまった事を後悔した。






 綺麗なエントランスを不審者の如く周囲を眺めながら、受付嬢が控えるカウンターへと向かう。






「こんにちは、本日アポイントの方はお取りになっていますでしょうか?」



「あー。一応?旦那にお弁当届けに来たんですが....」



「かしこまりました。旦那様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」



「....織田 詠斗ですっ。」





 あ・・・っと、綺麗な受付嬢さんが、漏らした時、何を思ったのか、私を舐める様に....と言うか、疑う様な視線を送って来たのだ。





< 131 / 152 >

この作品をシェア

pagetop