童貞を奪った責任



 ギャーピー、ギャーピー喚いて、七海さんにぶつける鬱憤、不満。



 一度爆発したら歯止めが効かないものなのだ。





「駄目ですって、姐さんっ!!」


 気づいたら、七海さんに本当に馬乗りになって、詠斗から数年前に貰った誕生日プレゼントである、短刀を七海さんに向けていた。


 そんな異常事態に気付いた天竜さんが、私の身体を引き剥がそうと躍起になる。



「無理っ、本当に、詠斗に見えてきて、七海さんって分かってるのに、ウザいっ、マジで!!」


「杏ちゃん、俺を殺す気満々じゃん。」


「何笑ってんすか!!」



 義理の妹に今にも切り裂かれそうになっていると言うのに、余裕ぶって何が可笑しいのか笑みを浮かべる七海さん。


 そんな彼に驚き、大声で怒鳴る天竜さん。



 
「だって、杏ちゃんの自己防衛でしょ?」


「――――はっ?」



 思わず固まって、七海さんの漆黒の瞳を只々見つめる。



「この世界に居たら、いつかは殺されるって覚悟を持っていないといけない。そしてその逆も然り。それが例え、可愛い義妹だったとしても、それは覆らないんだよ。」


 もしもの時に、自分で身を護れるようにって、与えられた武器なんだから....。と続けた七海さんは儚げだった。



 ほんとの本当に、私の立ち位置をすっかり忘れ去っていた。


 私は、暴力団というヤクザの家元に嫁いでいたという事を.....



 ずっと平和な日常を過ごしていたが為に.....




 この時、何で七海さんが真面目な話をしたのか。



 普段この男は、ヘラヘラしていてヤクザ臭を漂わせない。


 

「....ほら、人なんか簡単に死ぬんだよ。それをここに滑らせただけで俺は出血多量であの世逝きさ。」



 自らの首筋に指を手繰らせる男に、戦意喪失。


 いや、何故か冷静さを取り戻していた。




「ごめんなさい....私、何で七海さんに八つ当たりしてしまったのか....。」



「姐さん....ソレしまってください。」



 つい数分前までヒステリックになっていた私は、泣きながら七海さんから離れた。




.....のだったが、





 突如私を襲った吐き気によって、二人をその場に取り残して、トイレに駆け込んだのだった。

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