童貞を奪った責任
淡々と自分の出来る事をこなして来た日々は、元々冷め切っていて、自分の母親の事や兄の乱れた生活とかを目の当たりにすれば、必然的に俺は女という存在を裂けていた。
『織田君ってカッコイイのに、家がヤクザらしいよ....手出したくても出せないよね。』
俺は自分から人と関わる事を恐れた。
初めの頃は、家業の事を黙ってやり過ごしていたが、次第に噂は回って行く。
昨日まで仲良く話していた筈の友人が、次の日には掌を返した様に、俺を避け始める。
そんな事が何度も起これば、自ずと人間関係の構築に苦戦し、初めから独りの方が楽だと気付くのだ。
「若頭就任おめでとうございます。」
俺が子供の頃から、我が家に忠誠を誓うドライバーの男が、親父の元からの帰路で祝福の言葉を放った。
「....嗚呼。」
本当はこの現状から逃げたかったのかも知れない。
俺はずっと心のどこかで、逃げ道を....ヤクザから足を洗うという選択肢をほんの少しだけ持っていたと思う。
犠牲になるのは、兄だけで良いとさえ思っていた。
俺は俺の道を進む....。進みたい。だが、逃げ場を失ってしまった。
次期組長という選ばれた者が味わう、期待・関心・罵倒....それらを受け入れる事が出来るのか、不安で仕方が無かったのだ。
不本意ながらも選ばれた手前、親父に“嫌だ”と言えず。
まるで、『兄が駄目なら弟』と使い回しの様な気がしてならない。
俺が、山田組の若頭として就任した日から、目まぐるしく日々を送ることとなった。
会社と組の事を考えながら過ごす日々。
「若頭、顔色悪いっすよ。」
食事も喉を通らない程に忙しく、天竜に心配されてしまった。
無理にでも食べろと出された食事を目の前にして、一瞬身体が硬直する。
「....ちょっと外出する。」
現状で、ここまでストレスで頭が可笑しくなりそうなのに、これ以上に負荷が掛かれば、俺は間違いなく自害を選んでしまうのだろうと、不の感情で一杯になってしまった。