童貞を奪った責任
「いってらっしゃ〜い。」とゆらゆら手を振るケンちゃんを背に、私は急いでフロントへと向かった。
エレベーターの中で、沸々と湧き上がる怒り。握り拳を作りながら、奴の顔面を引っ叩いてやろうかと躍起になる。
けれど扉が開けば....戦意喪失。
「遅い。」
本日もお勤め途中なのか、セクシースーツ男子様。
その背後に強面二人を引き連れて、フロントスタッフも、その恐ろしさに恐怖し震え上がっていた。
「あんたいい加減にしなさいよ。私はあんたの女になった覚えは無いわ。」
殴る勇気はございません。手を出したら、その二匹のゴリラにどんな報復されるか、....恐ろしいわ‼︎
腕を組んで仁王立ちする男の前に、負けじと私も奴を見上げ睨みつける。
「あんたじゃねーだろ。詠斗だ。」
奴の名前なんて、若頭山田としか認識していなかったものだから、突然の自己紹介に呆気にとられて、ずっこけた。
といっても、実際に転んだ訳じゃない。
ただ膝がガクンと崩れただけ。
「ほら、呼んでみろよ。」
「なんで、無理。山田さん。」
「山田は俺の苗字じゃねーよ。」
あれれ?違うの?