童貞を奪った責任
我が家であるアパート前に到着して、自分で車の扉を開いて下車すると、続けて詠斗も降りてきた。
「じゃっ、さよなら。」
何かされる前に、お暇しなければ。腕を振り上げて、背を向ける。もう関わりたくもない。
階段を昇っていると、カンカンと背後から足音が聞こえてきて、思わず振り返った。
「――んなっ、なんで付いて来てんのよ。」
「自分の女の家に遊びに来ただけだ。」
「やめろ、今すぐ帰れ!!」
勢い良く指差す方向には、運転席と助手席からこちらを覗き見るゴリラ二人の姿。
ほら、あんたの事待ってるわよ。さっさと戻りなさいよと目で訴えてみる。
私の家には死んでも上げないんだから。何があろうとも....
「っくそ!!ドアノブから手を離せ、そして大人しく帰れ!!」
鍵を開けて、『じゃあ』と扉を閉めようとすれば、それは制されて....。
力尽くで命一杯引っ張っても、ビクともしない。
「諦めろ、杏は俺より弱いんだから。」
さっきまでの押し問答が嘘かの様に、グイッと引かれた扉に、身体を持っていかれてそのまま詠斗の胸へとダイブした。
痛いっ....。鼻を強打して顔を顰めた。
凄く無様だ。恥ずかしくて顔を上げる事が出来ない。今きっと涙目になってる。
「ほら、言わんこっちゃない。大丈夫か?」
なーんて、優しいのか優しくないのか分からない言葉を掛けた詠斗は、私の顎に手を添えると、無理矢理に上に向けさせてまじまじと見つめてきた。
吸い込まれそうな漆黒の瞳が、強打した鼻から徐々に上へと昇る。
頬を伝う涙を親指で拭うと、何故か笑みを溢して、口づけを落としてきた。