童貞を奪った責任
嗚呼、これは夢だと分かるくらいの悲惨な光景が広がっていた。
いったい何年前の出来事だったかな....。今の糞で屑な私を造った元凶。
『....(ギー、ギギギ―)』
雑音?モスキート音の様な.....そんな異音がした。大人になったら聞こえなくなると、誰かが教えてくれたけれど、大人になってからのこの種の音は耳鳴りって言うんだっけ?
辛いな....。私が横たわる姿を見つめる男の姿。
声なんか聞こえないけど、口元だけが動いていて、想像する言葉は記憶を頼りに、深く深く....真髄まで呼び戻す。
『・・・ないよ・・愛・てる。』
(離さないよ、杏。愛してる。)
だったかな。今思えば、どっぷり一人の男にはまって、その人だけに愛されていればいいだなんて、その時は酔っていたんだろうな。
好きで好きで堪らなくて、どれだけ酷い仕打ちをされようとも、やっぱり好きで....。
離れたというか、逃がしてもらったというか....
まあよくある話?いや、無いか。
夢の中で私は、その人に向かって微笑みながら、同じく声が出ない状況下で、
『(....消えろ、屑。)』と言い放った。
夢だから、ボロボロと目の前の男の姿がパズルのピースの様に、崩れ落ちて白く眩い光りが私の目を眩ませたのだ。
――――――「....殺す、杏が起きたら、目の前で詫びろ。それから死ね。」
眠りから覚めた時、自分の身体が横たわっているという事に気が付いた。
一番初めに聞こえてきたのは、頭上からのドスの効いた声。
頭部に温もり、若干揺れ動くかなり硬めの枕....。地震か?
ゆっくりと視界が開けてゆき、目の前に正座姿で顔を顰めながら耐える天竜?さん...と、
「悪かったって、ハチ。な?あれは事故だ。」
「嘘吐くんじゃねえ!!お前杏目当てで風呂場覗きに来ただろうが。」
ヘラヘラと反省の色を見せない、叱られているであろう白髪頭の男。
未だ寝惚けて覚醒しない虚ろな目で、ぼんやりとその男を眺めていたら、ばっちりと目が合ってしまった。