童貞を奪った責任
「ナナ、聞いてんのか?」
「あー、うん。一応?」
目が合って離せない。なんだろう....詠斗の瞳と同じだ。吸い込まれるみたいな独特なもの。
彼は誰だ?若頭である詠斗に、タメ口を利くし、髪色は奇抜だけれど、やはり何処となく似ている雰囲気。
ただ彼等二人を並べてみたら、違いは歴然なのだろうけども。
冷酷そうな無愛想の詠斗に対して、四六時中笑って世渡り上手そうなナナ?って男。
でも、なんだか胡散臭い気がしてならない。
ずっと視線を交わらせていたら、行き成り片目を閉じてウィンクを飛ばしてきた....は?
「杏ちゃん起きたみたいだよ、ハチ。」
「あ”?」
突如視界に逆さまの詠斗の顔がドアップで現れて、やっと逸らす事が出来た視線は、次は糞野郎を見つめて口が開き、アホ面を浮かべていた。
随分と硬い枕だと思っていたら、詠斗の膝だったらしい。私が目覚めた事を確認した男は、ゆっくりと私の脇に手を伸ばして起き上がらせた。
「おはよう、お前風呂で気絶したんだぞ。」
「....あ、そうだったわね。ところでこの状況は何?」
「覗き魔の処刑前。」
「えっと、どゆこと?」
「俺の女の裸を見た奴等。さて、こいつ等には今から杏の前で腹を斬って詫びてもらいます。」
不機嫌かと思いきや、何故か愉快そうに顔を歪ませた。
「....ごめん、意味わかんないから。」
どうしてか、涙目を浮かべた天竜さんは、懐から小さな鞘を取り出して、今にも実行しそうな勢いである。
その横に座る白髪男は、ヘラヘラと天竜さんの動向を窺っている。
なんでこの状況を面白そうに眺めてるの!!
寝起き早々カオスな現場だった。