童貞を奪った責任
この時私は何故か冷静だった。
詠斗の腕が絡みつく腰回りを払い除け、立ち上がって目指す先には、見た目推定年齢アラフォーであろう強面のオッサンの前。
いい歳したオッサンな筈なのに、短い刃物を持つ腕は震え上がっていて、怖いイメージなのに、何とも間抜けな面に呆れてしまうし、拍子抜けしてしまう。
ヤクザの威厳もへったくれも無いじゃない。
「天竜さん、とりあえずそれしまってください。」
そっと小さく見える男の肩に手を添えると、震えていた筈の身体が一瞬にして静まり返った。
動きを止め、動揺を隠せない男は、アワアワと口元を震わせて私の瞳を見つめる。
「....あっ、ぁああ姐さぁああん。」
私の慈悲に気付いたのか、感極まって泣き出してしまったオッサンは、握り締めていた筈の刀から手を離してしまい、それは当たり前だけど....
一回転、二回転.....ぐるぐる回る刃がザクりと突き刺さった。
「―――っぶな!!何すんのよ!!」
刺さった先は、私の足先すれすれの位置。
条件反射で思わず振るった拳は、見事天竜さんの右頬にクリーンヒットした。そのまま横に雪崩れたおっさんは、ナナの御膝元で伸びてしまったのだった。
「ガハハハッ!!マジか、超ウケるんですけど!!」
危うく足の指が切断か、甲を貫通するところだった。とはいえ....やってしまった。とは実にこの事だ。
白目を剥いた天竜さんを見て、笑い転げる下品なヘラヘラ白髪。そして一発で仕留めてしまった私の顔は蒼白....そして、
「お見事、切腹よりも面白いのが見れたわ。
―――――流石は、俺が見込んだ女だ。」
なんて、背後から笑い声が聞こえてきたんだ。
笑えねぇから!!