童貞を奪った責任







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 姐さんの姿が消えた事に気が付いたのは、その当日夜の事だった。




「てめぇ!!なんで杏を独りにした。」


 事態に呼び出された七海さんは、屋敷に到着するや否や、若頭によって何度も顔面を殴られて、血塗れになった。







 今朝方自分が朝食の支度をしている時、トイレに行こうとしたら、そこには先客が居て、その相手が姐さんだった。


 随分と体調が悪そうに、蒼褪めた顔を心配していたら突然意識を失い倒れてしまった。

 自分は慌てて若頭を起こしにいき、病院まで送り届けることとなった。



 勿論眠った儘起きない姐さんは、そのまま入院。


 医者は『ただの貧血』とは言ったものの、若頭は姐さんの安否を心配して、そわそわと落ち着きがない様子だった。




 生憎今日は平日で、若頭も経営している会社の方に出向かなくてはならない事態、緊急を要した若頭が決して下した判断は、兄である七海さんに頼む事だった。




 昼過ぎに目を覚ましたという姐さんを退院させて、無事屋敷まで送ったとのことだ。


 二人が屋敷に帰ってきた時には、タイミングが悪かったのか、組員の殆どが本部の方に呼び出されていて、蛻の殻だった。





 若頭も七海さんを信用して任せたというのに、さっさと仕事を済ませて帰ってみれば、姐さんの居る形跡は無く。





「ふざけんな!!」



 怒りに身を任せて、今にも実の兄の息の音を止めてしまいそうに狂った若頭を止めるのは容易な事では無かった。





 
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