童貞を奪った責任
姐さんという存在が、初めて俺達組員の前に現れた時の事の衝撃を忘れないだろう。
その時は、その現実に目を疑った。
あの、女の匂いを漂わせた事のない若頭が、俺達に魅せたことがないくらいに、その女性だけを溺愛している姿を....。
ヤクザの次期組長を前にしても、一歩も怯まず暴言を吐く姿を忘れはしないだろう。
恐れず、その上で拒否しようとする佇まい。若頭の一方的な気持ちを押し付けられているとは思ってはいたが、どこか自分は期待してしまったのだと思う。
実の兄が継承権を剥奪されて、不本意ながら回ってきた八代目の座。
それでも嫌がる素振りを見せずに、ただ自分に課された責務を果たすべく過ごす日々。
ある日、ひとりの女性を探してる。と包囲網を張ってまで探し出した。
ついに捕まえて、側に置くことが出来たというのに.....。
「絶対に探しだせ、絶対だ。きっと拉致はされてないだろう。」
どこか油断していたのだと思う。
ずっと拒み続けて、逃げるタイミングを窺っていたのだろう。
もしも敵対する派閥の組の人間に攫われている可能性があるのならば、直ぐに宣戦布告の情報が回って来る。
それが一切無いとすれば....それは即ち、彼女自身の意思で出て行ったということだ。
―――――申し訳ないですが、自分は若頭の事が一番大事なんです。
姐さんの意思を尊重したいのは山々ですが、目の前で荒れ狂う一人の男を放っておくことなんて出来ないんです。
こんな日だって俺は、食事を作る。
食事が喉を通らないからと、突っぱねられるのは分かってます。
でも、倒られても困るんです。