童貞を奪った責任
手を洗い終えて居間へと向かえば、つい勝手に殺してしまった設定のお爺ちゃんが、もんぺを履いてソファーに深く腰掛けながらテレビを観ていた。
「おお、馬鹿娘帰って来たか!!」
「ただいまお爺ちゃん。」
反社と絡んじゃ駄目だと、遺言を残した程で、お爺ちゃんを死人扱いにしてしまい申し訳ございません。
手を揃えながら、念仏を唱えていると、「誰が仏さんだ!!」とつるつるの頭で怒鳴るものだから、ついうっかりその自虐ネタに笑ってしまった。
暫く団欒としていると、母が用意した夕食に有り付いて、懐かしさの余り感動しながらも完食する。
「あんた、突然帰省するなんて....。あんなに頑なに帰らない。って言ってたのにどうしたの?」
田舎のローカル番組を眺めながら、やはり勘の良い母は訊ねてくるのだ。
「いや、何か....暇だったから。」
「あっそ。そう言えば、同窓会のお便り届いてたわよ。」
部屋に置いといたから、と言われて風呂上りに自室にやってくれば、私が昔実家を出た時の儘の姿を残す。
当時好きだったアーティストのポスターや、学生時代の思い出の品の数々が棚に並んでいて、懐かしさに更けていた。
同窓会の日程は、明後日と表記されており、地元の友達との連絡先はすべて消してしまった私にとって、みんなとの唯一の連絡手段は、実家へ届く便りだけだ。
そして詠斗の元を離れた時、彼の連絡先を拒否にした。あんなに四六時中、迷惑なくらいに鳴り響いた着信履歴にメッセージの通知は無くなり静けさを取り戻す。
地元から離れて、大学を出て就職して、性欲を満たすだけのつまらない日々を送っていた私にとって、連絡を取り交わすのは、セフレ君たちだけだったのだと気付かされる。
詠斗と出会い、しつこい位の執着心に嫌気がさしていたけれど、いざ自分から手放したら虚しいものだ。