童貞を奪った責任
学生という最高の青春時代を謳歌していた時、私は一人の男によって、生き様までもを変えざるを得なくなった。
このまま私もこの田舎町で就職し結婚して、順風満帆な家庭を築くものだと、思い描いていたんだ。
―――――「こら、あんたいったい何時まで寝てるつもり!?」
帰省と言う名の脱獄をしてきた私は、ぐーたらと食っちゃ寝生活をして過ごしていた。
感傷に浸る幼気な愛娘だと言うのに....。
布団に包まって爆睡していたら、もうすっかり夕方である。
同窓会の開始時刻までは、あと一時間と迫っていた。
ぎりぎりまで参加しようか迷いに迷い、もしも寝過ごしたら、行かなくていいや。なんて安易な気持ちで爆睡こいていたというのに、鬼の肝っ玉母ちゃんは、容赦なく私の布団を掻っ攫った。
「杏や、爺ちゃんと一緒にオセロでもやるか?」
「お!!いいね。久々に圧勝しちゃうよ?」
ガハハっと大口を開けて笑い転げていると、後から居間にやって来た母が、ギロリと私を睨みつけた。
「お父さん、杏はこれから同窓会に行くんですよ。オセロは明日にでもやったらどうです?」
「ほう、そうかそうか。外は寒いからうんと暖かい恰好しなさい。」
行かない。という選択肢はここで剥奪された。
渋々着替えて化粧を施し、外に出ようとすれば、丁度仕事から帰ってきたお父さんが、車の窓を開けて声を掛けてきた。
「送ってやるから、乗りなさい。」
会場である居酒屋は、あの過疎化した駅前に在る。そこまではバスで行こうとしていたのだが、お父さんの厚意に甘えることにした。
降り止む事を知らない豪雪地帯は、一日中雪が降り続いて、初日よりも分厚い雪の壁を建造させていた。
カーステレオから流れるAMラジオ。割れた様な汚い音質で流れるのは演歌だ。
「ねえ、お父さん....」
曲が終わって、ラジオDJが町の天気の話題を繰り広げている最中、ハンドルを握り運転に集中する父に話しかけた。
「なんだ。」
凄く無愛想な返事をする父に、私は弱音みたいなものを連々と吐き出す。