童貞を奪った責任

・ ・ ・






―――――時は、少しばかり遡る。





 姐さんが失踪した日、俺達組員は本来の仕事をそっちのけで捜索する破目となった。とある男は、愚痴を溢す。



「絶対にあれは、脈無しだな。」


「そんな事言ってる暇があるなら、さっさと自宅周辺見てこいや。」


「分かりましたよ....。でも絶対に居ないと思いますよ。俺だったら間違いなく匿ってもらえる場所に身を潜めますよ。」




 渋々と姐さんの自宅アパート周辺を捜索しに回った男を見送ると、車に凭れ掛かりながら煙草に火を点ける。



 若頭が欲する女性が逃げたとなれば、そりゃ当初からあの人を知っている俺にとっちゃ残念でならない。



 あの坊ちゃんが、今じゃ成長して次期組長候補ときたもんだ。時の流れってのは早いもんだな。


 現六代目が次期候補にと、双子の兄の方を育ててきたが、当の本人は遊び惚けて自覚が足りなかったと思う。



 それはいっときの出来事。六代目が体調を崩した時に世代交代だと騒がれて、仮だが七代目に就任したが、それも即行にしてクビ…。



 女遊びが洒落にならない火種を起こした七海坊ちゃんと、それとは反対に組を継がないと思い、自身で会社を立ち上げて外部収入を得る自立した弟。



 双子の癖に、似てない性格。同じ顔している癖に、女の【お】の字すら連想させない女の影皆無、冷酷だがこの時代に順応する現若頭は、奇跡の様に現れた美女にお熱って訳さ....。





 ....面白い話だろ?







―――――そんな時、ピリリ...と俺のスマホが着信音を奏でた。



「.....はいっ。」









 やはりこの辺りには居ない模様。他の奴等は、その例の女性の会社に行き、出社の有無を聞いたらしいが、


勿論、脅しでもなんでもして吐かせたのであろう。そんなのは俺たちにとっては日常茶飯時なのだ。



『有給使って、実家に帰省しているらしいです。』


 そんな朗報は、すぐさま若頭へと伝達されていった。



 俺はすぐさま屋敷に車を回し、若頭を拾うと、その例の――――――美女様が逃げたとされる彼女の実家の方へと車を走らせた。




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