童貞を奪った責任
田崎 優磨という男の子がこの街に越してきたのは、私がまだ中学生の頃であった。
何やら親が離婚しただとかで、母方の親戚の家にお世話になってると告げられたのは、彼と仲良くなって半年が過ぎた頃だった。
「杏、今日家に遊びに行ってもいい?」
そう尋ねてくる時は、決まって家で何か善からぬ事が起きた時である。
優磨のお母さんは、離婚してから狂ってしまい、精神的な病を患っているそうだ....。
居候の如く、肩身の狭い想いをして親戚の家に居座る彼は独りぼっちであった。
まだ幼気でお節介な当時の私は、感慨深く彼の相談を真摯に受けていた。
割と誰とでも直ぐに仲良くなれる八方美人の様な性格だったが、優磨の境遇とかを聞かされた時は、感情深い気持ちに陥いった。
異性と二人きりだというのに、別に意識せずにいられたのは、彼が当時中世的な顔をしていて、男に見えなかったからだと思う。
気弱で天使のような見た目の男の子。守ってあげたくなる弟的な存在であった。
我が家はお爺ちゃんと両親と私の四人暮らしで、お爺ちゃんは生粋の大和魂を持った日本男児だった。因みに酔っぱらうと呂律が回らないながらも、オヤジギャグを言うような変人で、当時は孫に男の子が欲しかったと、お母さんと私を困らせる様な人だ。
初めて優磨を家に連れてきた時、お爺ちゃんは心底、彼の事を気に入って、孫の私よりも彼を可愛がっていた。その所為で、優磨が我が家に入り浸るのは当たり前である。
「お母さんが夕飯食べてけってよ~。」
「やった!俺、小母さんの作るごはん好きなんだよね。」
なーんて、可愛気のある純粋な笑顔を浮かべる様な奴だった。
娘の私からしたら、毎日食べてる食事は、飽きてしまっていて、でも....優磨にとっては特別だったのかな。