童貞を奪った責任
中学校の卒業式を迎えるのは、あっという間であった。私の家族が式に参列する最中、優磨の母は愚か、親戚もやって来なかった。
「優磨、杏。二人の写真撮ってあげるわよ。」
さあ、並んで。なんて、母が言うものだから、二人並んで校門の前で写真を撮った。
とりあえず一旦帰宅するという優磨に、「またね。」と告げて、私達一家も我が家に帰ると、程なくしてやって来た優磨は、私に勝負を仕掛けてきたのだ。
今まで優磨に負け無しの私だったから、今日も余裕で勝利する事が出来るんだろうな。と思っていたが....。
勝負の途中で、優磨はとある提案を持ちかけてきた。
――――「俺がこの勝負に勝ったら、杏はずっと一緒に居てくれる?」
特にその言葉に意味など無いと思っていた鈍感な私は、二つ返事でいいよ。と返事をした。
別にそんな事言わなくても、私達は仲良しなのは変わらない。って思っていたのだ。
最後の石を置く時、私は絶望感に満たされる。
久し振りに感じる敗北感に、頭は真っ白。口をあわあわと動かしながら見つめる先には、圧勝する数の優磨の黒。
「約束守ってね。」
真顔でそう告げてきた刹那、碁盤の石は彼が手を置き、圧し掛かった拍子で、弾けて吹っ飛んでいった。
気づいた時には、私の唇に柔らかな感触。間近に見える中世的だった筈の優磨の顔は、いつの間にか男らしくなっていて、ファーストキスを奪われた私は。驚きの余り硬直してしまったのだ。
後々気付かされた事だが、あの日優磨は遠回しに私に告白していたのだ。
それから近くの高校に二人して進学した私達は、周りから“カップル”として認定され、彼と共に過ごす時間に、何処となく喜びを感じる様になっていたのだ。
二人で過ごす時間は掛け替えのないもので、付き合う前とは変わらない日常を繰り返しながらも、それ以上の事をする仲になり、手を繋いで歩いた通学路、恥じらいながらする甘酸っぱいキス。抱きしめ合ってお互いの体温を確かめ合い、恋を知る。
高校二年に進級すると、私たちはクラスが離れ離れになってしまった。だけど休み時間になれば、互いの教室を行き来する程、仲が良かった筈なのだが....
『伊丹って超可愛いよな。』
少し大人へと成長した私は、男子からモテるようになり.....
調子に乗って優磨との話のネタにと、とある日の帰り道に、ついポロっと言ってしまったのだ。
「今日ね、廊下ですれ違った男子に可愛いって言われちゃった。」
「へぇ.....そうなんだ。」
先程までの優しい声とは打って替わり、表情を曇らせた優磨。
てっきり彼女自慢を目の前で披露してくれるものだと思っていたのに....
「ねえ、杏。そろそろ俺を受け入れてくれない?」
その言葉は、私達を泥沼の地獄へと突き落す合図だった。