童貞を奪った責任




 同窓会の会場内は優磨の登場により、空気が一変していた。


 けれど私たちも大人になった訳で....。






「少し話したい....。」


 そう耳元で囁いた彼に、私はゆっくりと頷いた。




 

 一頻り酔っぱらってしまっている私に、優磨は家まで送って行くよ。と店先に停車させていた乗用車に乗せてくれたのだ。



 その車は、ファミリータイプのもので.....



 助手席に乗り込んだものの、後部座席を覗き込めば、女性が一人と....その真横に設置されたチャイルドシートには、天使の様な寝顔を見せる生後間もないであろう赤ちゃんが目に入る。





「....二人とも寝てるから、静かに扉締めてね。」


 人差し指を立て口元に寄せるものだから、私は優磨の言う通りにした。







 初めから感じていた違和感の正体。その答えは間違いなく、この女性と子供にあるのだろう。


 ハンドルを握る優磨の左手には、指輪が嵌められていた。私が居なくなった後に、ちゃんと幸せになれたんだね....。




 私が優磨に対して、ずっと恐れていた事と言えば、


「あの日....の事覚えてる?」


「嗚呼....俺が取り返しのつかない事をしてしまった日、だろ?」


「まあそうなんだけど、優磨のお母さんが亡くなった時、私は一緒に居てあげられなかったね。」




 逃げた事を後悔しているか?と問われれば、それはその時の気持ちを最優先にしてしまったから、自分を責めたところで、どうにもならない訳で、





「俺、あの後、お前の親父さんに殴られて....『お前も辛かっただろうが、娘を傷つけた落とし前だ!!』って怒鳴られて、お前の家族に泣きながら土下座したよ。お前が実家を出たって聞いたから、俺も踏ん切りがついて....親戚の家を出て、親父と暮らす事にした。」





 娘が数年振りに帰ってきたというのに、両親はそんな話をちっともしてもくれなかった。



 優磨はそれから、都会に住むお父さんと一緒に、ぎこちないながらも、心機一転し生活をスタートさせていたのだ。



 
「嫁には、俺の今までの葛藤を話してある....。杏の存在もな。今日は娘が生まれた事と、結婚の報告を兼ねてここに来たんだ。そしたら、運良くお前が居た....。」


「そうだったんだね。優磨が幸せを掴めて良かったよ。」


「今更、俺が杏にしてきた事を許してください。だなんて被害者のお前からしたら、とても許し難い事だって分かってる。」


「ううん....。なんか心の踏ん切りがついたっていうか....。最初から私は、優磨という....あの天使みたいな男の子が幸せになることをずっと願ってたんだと思うよ....。」





 彼に再会して、改めて自分の気持ちに気付く事が出来た。


 彼を幸せにする役目は、私では無かったのだと.....。








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