童貞を奪った責任
「恐らくだけど、多分この先、二度とお前に会えないかもしれない。」
そう伝えてきた優磨は、仕事の関係で海外へと転勤する事になったらしい。
豪雪地の道路をゆっくりと走行し辿り着いた私の実家。
暖房の所為で、すっかり寝てしまっていた。
起こされた時には寝惚けていて、優磨に介抱されながら車を降りた。
夜も遅いというのに、何故か実家の居間の電気が点いていて、酔っ払いながらに首を傾げると、
軒先には、見覚えのある様な無い様な、車高の低い黒のセダン車が停車していた。
・・・優磨との再会に、浮かれて忘れていたのだ。
咄嗟に危機感を感じた私は、
「優磨、ヤバい。私殺されるかも!!」
「えっ!?なんで....」
雪道を颯爽と駆け抜ける歩行音、それが段々と近づいてきて、逃げ遅れた私は咄嗟に身構えた。
「杏、てめぇ!!.....また浮気しやがって!!」
気づいた時には、私を支えてくれていた筈の優磨が、怒号を上げたであろう人物によって押し退かれ、支えが無くなった私は、その場に崩れ落ちそうになるが、
「この俺から逃げられるとでも思ったか!?」
なんて、脅迫チックな台詞を吐いた。私を抱き締める腕は強く....捕えて絶対に離してはくれない。
―――――これは時間の問題だと思っていた。詠斗からの逃走劇も、彼の異常な執着心の所為で、直ぐに終止符を切る。
いやいや、予定だと、
一、このまま詠斗が諦めて、逃げ切る事に成功する。
二、実家から帰ってきたところで捕まる。
三、諦めて投降する。
....とか、そんな考えを持っていたというのに、
『帰れ!!娘はやらん!!』
お父さんに怒鳴られて、帰っていくヤクザの若頭の絵図をずっと妄想していたというのに.....
「杏が何度別の男の場所に行こうとも、俺は何度だって阻止する。そして絶対にお前を連れ戻す。」
―――――ほら、もう諦めろ。お遊びはおしまいだ。