童貞を奪った責任
そんな気不味い雰囲気の中で食卓を囲み、私の隣には、この家とは不釣り合いな美形男子様が居て....
いつも屋敷では堂々たる振る舞いをするが、今日は私の家族の前だからと、改まった様に縮こまっていて、そんな彼の事を少しだけ可愛いと思ってしまった。
「ちゃんと詠斗君に手料理振舞ってあげてるの?」
「いや、私は作らないよ。」
昔から母の料理の腕には及ばず、一人暮らしを始めてからも作るのは簡単なレシピばかり。
クックパッドを開けど、忠実に再現など出来た試しはない。
最早デリバリーとか、酷い時には白飯一杯で食事を完結しちゃったり。好きな食べ物と言えば出汁。最早原点の鰹節とかだったり。意外と偏食だったのだと気付かされた一人暮らし。
屋敷に住んでる時は、天竜さんが作ってくれていたから、尚更料理なんてしなくなった。
「あんたって子は....。」
「お母さん、心配には及びませんよ。専属の料理人が常駐していますので。」
私には見せたことがない様な、おば様をメロメロにされるキラースマイルを浮かべながら甘い声を出した詠斗。
思わず二度見してしまった。母を見れば、悩殺だった様子....。駄目だ、普段の如何わしい奴の顔を見せてやりたいものだ。
俺様で、下の人間には冷酷無慈悲。偶にこいつは鬼の生まれ変わりなんじゃないかな?って思う時がある。
「お手伝いさんがいらっしゃるのね~。」
「いえ、組っいんんん!!?」
咄嗟に詠斗の口を塞いだのは、他でもない。この人の職業がばれたら、やばいと思ったからだ。
「ハハハハハっ!!ハハハ~。そうなのよ~。彼実は家事全般はだらしなくって、お手伝いさんを雇ってるの!!」
ね!!そうでしょう?と必死に目で訴えかければ、詠斗は訳が分からないと言った様子。ここは絶対に話を合わせて貰わなくてはならない。
極々一般の家庭の一人娘が、まさかヤクザの若頭に溺愛されてます。だなんて口が裂けても言えません。
というか、知られたくない。
それに私は、詠斗の女になった覚えは無いので、こいつが【お母さん】とか呼ぶことが気に喰わないし、昨晩私が居ない隙に、我が家にやって来て、母にそれとなく自己紹介をしてしまったらしいが....
私達は別に付き合っている訳でもないので、なんだろうこの感じ。
もうゴールイン目前です。ってプレッシャーを与えられてるみたいだ。