童貞を奪った責任
実家からの帰りの道中、運転手さんを困らせる様に、私は何度も吐き気を催した。
「おいおい、まさか妊娠したか?生理きたくせに。」
「違うわよ....昨日日本酒飲んだ所為で、二日酔いなの。」
元々酒が弱い癖に、歳を取るごとに抜けが悪くなってくる。私の歳でそんな事言ったら年上の方々にどやされそうだけど、そうも言ってらんないくらいにしんどい。
食事後ってのもあって、吐き出す物は、胃液スープお袋の味。ゲテモノレシピを完成させ、蒼褪めた私は、いつの間にか詠斗の膝枕で眠りについていた。
―――――「姐さん!!よくぞご無事で....。」
威勢の良く大声を上げ、目に涙を浮かべた強面が、私に突進してきたのは、すっかり日も落ちた頃の山田組の御屋敷の玄関でのこと。
もう見慣れてしまった天竜さんの割烹着姿は、今となっては違和感無く、彼そのものだと思っている。慣れって怖いな~。
お母さんに専属料理人はこの人だよ!とは気安く紹介出来ない風貌に、後ろめたさが残る今日この頃。
屋敷の大広間では、私の帰還を知らされた構成員たちを集めての大宴会を行う事になった。
私が逃亡して、組員全員が若頭に扱き使われ色んな場所を探し回ったらしい。
代わる代わるやって来る強面たちは、「帰ってこなかったら、若頭に海に沈められてたかもしれません。」だとか「指を詰めなきゃいけない」とか....
何だか恐ろしい事をしようとしていた詠斗に身体の震えが止まらない。この男に逆らったら豪い事が起こりそうだ。
被害を蒙り、そして心配を掛けた事を彼等一人一人に謝罪をしていると、隣の美形様は何やら不機嫌そうな面持ちである。
代わる代わるやって来る組員全員にガン飛ばす始末だ。
酒で酔っぱらってる彼等が、私に絡んでるのが気に喰わない様子で....
「杏、そろそろ行くぞ。」
なんて、我慢の限界の詠斗は、勢いよく立ち上がって私の手を無理矢理引きながら、大広間から飛び出した。
何度も身体を重ねた寝室は、今日も今日とて綺麗に整ったお布団が一組。
「他の男に笑いかけてんじゃねーよ。」
と怒り出すと、私の口に噛み付いて、
「俺以外の男を視界に入れやがって」
と下唇を噛み締めたあとは、私の瞼にキスを落とす。
「俺の声だけ聞いてろ。」
ぐちゅぐちゅと音を立てながら、舌先で耳を舐めまわした。
私のすべてを奪いたい男は、
理想的な完璧身体で今日も、私を丁寧且つ激しく抱くのだ。