王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~
 その言葉のすぐあとで、私の心臓あたりが強く痛み出した。

「あああああ!!!」
「ユリエ!!」

 身体が引き裂かれるようなそんな痛みが襲ってきて、意識が遠のき始める。
 ユリウス様とレオが駆け寄って、なんとか解除をしようとするもまるで効果はない。
 術をかけた魔術師も王妃の命によって必死に止めようとしているが、解除できないのだろう。
 皆の焦った声と表情が私に届く……。

 やっぱり死ぬんだ、私……。

 そう思ったその時、母の声がした。

『友里恵、辛い時はこのおまじないを唱えてごらん』
『おまじない?』
『そう、「穢れよ、消えよ」』
『けがれ?』
『そう、繰り返してみて』

 そうだ、小さい頃からよく言われたおまじないの言葉。
 なんで今思い出すんだろう。
 走馬灯ってやつなのかな。
 お母さん、会いたかったな、もう一度、もう一度、会いたかった……。

 私は最後にその思いを込めて呟く。


「穢れよ、消えよ」

 その瞬間、私を縛り付けて苦しめていた何かが消えていく。
 すごくゆっくりだけど、心臓の痛みもなくなったいった。


 やがて、静かな時が訪れる──

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