王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~
「ユリウスが表で待ってる。行け」
「レオ様……」
「もしあいつに泣かされたら、俺のところに来い。いつでも来ていい」

 私は笑みを浮かべて再び頭を下げると、彼と別れた──


 王宮の玄関口に向かうと、馬車の傍でユリウス様が待っていた。

「ユリエ」
「お待たせしました!」
「帰ろうか」

 そうして差し伸べられた手を取った。


 馬車の中で私はコーデリア国での思い出を浮かべながら窓の外を見ていた。
 すると、手に温かいものを感じて振り返る。

「ユリウス様?」

 私の手に彼の手が重ねられていて、さらにその手は彼の唇に寄せられていく。
 照れてしまって顔を赤くする私に追い打ちをかけるように、ユリウス様はわざとちゅっと音をたてる。

「あなたが心配でたまらなかった。無事でよかった」
「ご心配、おかけしました。私もその……」

 私は少し恥ずかしい気持ちを抑えて、勇気を出して告げる。

「会いたかったです、ユリウス様」
「ユリエ……」

 じっと見つめられた瞳に吸い寄せられるように、私と彼の距離は近づいていく。
 そうして、目をつぶった少しあとに、唇に柔らかいものが触れた。

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