王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~
 ふふ、ヒールはやっぱり私には早かったのかしら。

 そんな風に思っていると、小さな集合住宅が見えてきた。

「はあ……はあ……はあ……」

 私は息を整えてその扉を見つめる。

「帰ってきた……」

 私は嬉しさと懐かしさで喉の奥がつんとしてくる。
 心を落ち着かせて一歩踏み出したその時、家の玄関が開いた。

 中からは私のずっと会いたかった人がきょとんとしてこちらを見ている。
 母は確か、私の卒業式を見た後で先に帰ると話していた。

「お母さん……」
「卒業おめでとう、友里恵。おかえりなさい」

 母も私の涙をきっと思い出に浸っているそれだと思っているだろう。
 だけど、だけど……たまらなく溢れてくる感情。

「ただいま」

 そう言って私は母の元へと近づいていった──



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【ちょっと一言コーナー】
お母さんに会えました。
ずっとずっと会いたかったお母さんに。


【次回予告】
無事に戻ってきた友里恵は、母との再会を喜ぶ。
そうして母との楽しい時間を過ごすうちに、彼の事を思い出して。
次回、『平和で懐かしい日常』。
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