王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~
 窓から見える景色は、宮殿や大きな屋敷でもなんでもない、コンクリートの一軒家やマンション。
 都会みたいにとても大きなマンションじゃないけど、目の前には5階くらいのそれが立っている。

「まきちゃんと遊んできたんでしょ?」
「うん、写真撮ってカフェで話しまくった」
「あんたたちいっつも話長いんだから」

 母は冷蔵庫とガスコンロを行ったり来たりしている。
 次々に冷蔵庫からテーブルに並べられていく食事は、すでにあらかた出来上がっており、きっと私がまきちゃんと遊んでいる間に作ってくれてたのだろうと思う。
 煮物と揚げ物と、サラダが二種類も……。
 なんか、いつもより多い……?

 私が異世界での食事に慣れすぎたせいか。
 そう思ってテーブルのほうへと近づいていきながら尋ねてみる。

「なんかいつもより多くない?」
「ふふ、だって卒業なんてお祝いじゃない。作りすぎたわよ」

 そう言いながら、まだあるわよ、と言って冷蔵庫から私の好きな青菜のお浸しを出してくる。
 仕上げのかつおぶしを乗せると、ふわっと和風の香りが漂ってきた。


「いただきます」
「どうぞ」

< 145 / 167 >

この作品をシェア

pagetop