王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~

第30話 母娘の時間と桜(2)

 頭の中で、全てのピースが繋がる音がした。
 お母さんは私の目をじっと見ながら、淡いピンクの口紅が塗られた形のいい唇を動かす。

「サクラ、大きくなったかしら」

 その独り言のような呟きに、私はすかさず返答する。

「うん、すごく大きくなってた」
「ミスティア様は?」

 その名前を聞いてはっとした。
 ミスティア様は確かユリウス様のおばあ様の名前。
 そうか、私とは行った時代が違ったってことはやっぱり……。

「お母さんが100年前の聖女だったんだね」

 その言葉を聞いて、お母さんは少しだけ驚いた表情をした後に笑った。

「そっか、100年違う世界だったのか。じゃあ、ミスティア様はもう……」
「うん……。今は孫にあたるユリウス様が殿下として、そのお父様が国王としてクリシュト国を守ってる」

 なんだか懐かしそうに、寂しそうに桜の枝を見つめる。
 ひらひらと舞ってきた桜の花びらを手に乗せると、じっと見つめた。

「今まであなたにはあまり過去のことは話さないようにしてた」
「うん」

 そうだ、お母さんはいつもあまり昔のことを言わなかった。
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