王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~
 おばあちゃんもおじいちゃんも早くに亡くなったって聞いてたし、お父さんももういない。
 私を女で一人で育ててくれた。
 なんだか触れちゃいけないようなそんな気がしてた、子供心に。

「聞かせてくれる? お母さんのこと」

 私は勇気を振り絞ってお母さんの様子を見ながら尋ねた。
 そうしてお母さんは小さな声で、そうね、と言いながら語り始めた。

「私が友里恵と同じくらいの歳、正式には高校卒業して1年半だったから19歳ね。その時、買い物から家に戻る途中で召喚された」
「あっちの世界に?」
「そう。コーデリア国、クリシュト国の隣の国だった」

 確かに100年前の聖女はコーデリア国に召喚されたっていってたっけ。

「コーデリア国は歴史もすごい国で、魔法使いもいて、本当に物語の中の世界だったのよ。異世界から来た私にすごいよくしてくれてね」

 お母さんはコーヒーを一口飲んで笑いながら、まあ聖女だったからだろうけど、なんて言う。
 少しだけふうと一息ついたあと、お母さんはその後のことを続けて語ってくれる。

「どれくらいだろう。たぶん、一ヶ月しないくらいかな。そこでね、国王に依頼をされたのよ」
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