王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~
 好きで好きで、でももう会えないかもって思った。
 お母さんが心配な気持ちをわかってくれて、帰っていいよといってくれた。

「でも、お母さんが……!」
「大丈夫、私は一人で生きていける。あなたと生きた18年間。いえ、おなかにいた時からの19年間は幸せだった。もう十分よ」
「お母さん……」
「ほら! しっかりしなさい! 私の娘でしょ!? なにくよくよしてんのよ! 好きな人がいるなら、ちゃんと捕まえなさい! 傍にいなさい!!」

 お母さんは私の背中をもう一度さすると、ポンと一つ叩いた。

「あなたのことをずっと思ってる。でも、私が一番願ってるのは、あなたの幸せ。その手でつかめる明るい未来」

 私はお母さんの手を握って、そうして胸の中に飛び込んで泣いた。
 まるで子供の時のようにわんわん泣いて、お母さんを感じる。

 ああ、なんて幸せなんだろう。
 こんなに想ってくれる人がいて、私は……。

 そうして私は自分の気持ちを吐き出す。

「ユリウス様に会いたい! 会って、ちゃんと好きだって……!」
「うん」

 もしかしたら薄情なのかもしれない。
< 163 / 167 >

この作品をシェア

pagetop