王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~
 ──30年前、元王妃は王の元に嫁いで来たが、一向に子宝に恵まれずに苦肉の策で王は第二王妃を娶った。
 その第二王妃が現王妃だった。
 現王妃はすぐに子宝に恵まれ、エリク様を出産した。

 やがて、エリク様に第一王位継承権が与えられる直前に元王妃は子宝を授かって王子を生んだ。
 それが第二王子のユリウス様だった。
 しかし、元王妃はそのまま病で亡くなり、王は憔悴して同じく床に臥せてしまった。
 王がいなくなった王宮を支配したのが、現王妃だった。
 現王妃は自ら王に正妃の座を迫って実権を握り、元王妃の代の宰相や騎士団長、メイドらを辺境の地へと追いやって自らの息のかかった者たちばかりを王宮に入れた。

(私が王宮書庫室で調べた内容と同じ、食い違いはない)

「そして、今度は第一王子を次期国王とするために聖女を婚約者とした。それがあなたです」
「──っ!」
「調べられたかもしれませんが、この国は元々聖女の力で繁栄した国でした。聖女は他の世界からの人間だったと過去の文献にあったのを王妃は見たのでしょう。私の調べでは王宮魔術師の手を借りてあなたを召喚したことまで把握できています」

(やはり、私は聖女として利用されるためにこの世界にやって来た。そして、昨日執事長の言っていた『聖女』はこのことか)

「そして、王妃は私欲のためにあなたの記憶を改ざんして第一王子の婚約者だと嘘をついて王宮の一角に住まわせた」

 そこまで聞き、なんとなく自分の立場と今までの王妃の言動やエリク様の動き、周りの見張るような視線に納得がいった。
 ふっと息を吐いて私は自分の出した『答え』を信じることにした。

「私は第一王子の婚約者として過ごしてきました」

 その言葉にユリウスは目を逸らさずに私を見つめて聞く。

「しかし、同時に別の世界で生きていた本当の18年間の記憶もあります」
「──っ!」

 私はユリウスを真っすぐに見つめ、18年間の現代の記憶とここで過ごした1年の記憶を語り始める。

 その日からユリウス様と私の共闘生活が始まった──
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