王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~
 そんなこととはつゆ知らず、エリク様は私が先に待っていたガゼボに優雅に登場する。

「待ったかい?」
「いえ、今来たところですわ」

 エリク様が座るとメイドのリアが紅茶を注ぎ、私と彼の前に置く。
 香りから推測するに今日はオレンジのフレーバーティーらしい。
 こんな優雅な時間に思える今この瞬間も私の脳内はエリク様への警戒と戦略でいっぱいだった。

「最近はどうだい? リアから聞いたんだが最近よく風邪を引いているらしいじゃないか」
「ええ、少し気温差でまいってしまったようでして」
「そうかい、あまり無理はしなくていいからね。君は私の妃になる準備だけしてくれればいいから」
「はい」

 たまに感じるこのヤンデレとでもいうのだろうか、このお前は何もしなくていいからと言われているようなそんな印象を受ける言葉を彼はたまに言う。
 これは天然なのかあるいは私に余計な事をさせないように牽制しているのか、どちらなのか。
 さあ、見せてもらおう。
 あなた様の本性とやらを……。
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