王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~
「こうして会うのは久しぶりですね」
「ええ、いつも手紙のやり取りでしたから。いつもユリウス様は字がお綺麗だなと思いながら見ております」
「そうでしょうか? 初めて言われました」
「嘘?! とても綺麗で美しい品のある字だと思います」
「あ、ありがとうございます」
「字に関しては左利きなもので癖がある字だと思っていたのですが……」
「そうだったのですね! でも右利きでも左利きでもユリウス様の書く姿は気品あふれるんだろうな~と思っておりました」
「……そ、そこまで褒めていただけると、その、もうおやめくださいっ!」

 ユリウス様は恥ずかしそうに頭を搔きながら少し目を逸らして顔を赤くする。
 字でもその真面目さを感じられたけど、なんだかこうした反応を見ると可愛いというか、好感が持てるな。

「こほん。ユリウス様、聖女様、そろそろよろしいでしょうか?」
「え、ええ。ごめんなさい書庫室長」
「いえ。先日の調査によりやはりエリク様も王妃様と共犯で記憶の改ざんに関わっていると」
「はい、改ざんの儀式などそのものに関わっていなくとも、やはり不自然に記憶を覚えていないことが多いです。それに私の事を「聖女」としてしか見ておらず、私自身を愛する気持ちもないこともわかりました」
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