王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~
 サクラってあの『桜』?

「サクラはこの国でよくある木ですか?」
「いいえ、この国どころか、この世界には他にない唯一無二の木らしいです」
「──っ!」

 それってこの木が聖女によって植えられた……つまり現代から持ち込まれたものの可能性がある?

「その“サクラ”はもしかして春に淡いピンクの小さな花を咲かせますか?」
「おや、リーディア。よくご存じですね、聖女様だからでしょうか」

 やっぱりっ!
 間違いない。これは現代と同じ桜の木だ。ということは、聖女はもしかして同じ現代からやってきた人間?
 いきなりの転移で桜の木を持ってるわけないから、一度現代に戻ってまた来た?
 もしかして行き来できたんじゃない……?!

「どうしましたか、リーディア」
「いえ、ユリウス様。その、恥ずかしいのですが、ホームシックになっていたようでして」
「ほーむしっく?」
「家や母が恋しくなったのです。記憶を取り戻してもうすぐ一ヶ月。私は帰れるのだろうか、って」

 私がだんだん俯きがちに話していると、ユリウス様の足音が近づいてきてそして私の前で止まる。
 すると、私の頭を撫でてそれから急に私を優しく抱きしめた。
< 31 / 167 >

この作品をシェア

pagetop