王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~
「──っ!」
「あなたは一人でよく耐えています。よくここまで我慢しましたね」

 その言葉だけでも私には十分すぎる優しさだったようで、思わず目の前の視界がぼやけてくる。

「あなたは本当に聖女のように清らかで美しい人です。でも、あなたはふと寂しい顔をするときがある」

 図星だった。
 ユリウス様は私を、私自身をよく見てくださっていて、それは愛情に飢えた私にとってすがりたい気持ちにさせる。

「私がいつかあなたを自由にし、そして……絶対に本当の笑顔が出せるようにしてみせます」
「ユリウス様……」

 そして、少しの沈黙の後に私をそっと自分から離すと、目を見て真剣な顔で言う。

「もし人目もはばからずに会うことができたら、その時はあなたと──────」

「え?」

 ユリウス様が少し照れて告げた言葉の最後は、風の声で私には届かなかった──
< 32 / 167 >

この作品をシェア

pagetop