王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~
「昔から母上と王宮を抜け出してはここで紅茶を飲んでいたんです」
「あ、だからさっき坊ちゃんって」
「その呼び方はやめてください。僕はその、もう坊ちゃんではなく一人の男だ」
「あっ! なんかその雰囲気いいですね」
「え?」
「なんというか、いつも敬語だったのでなんとなく距離があったんです」
「けいご?」
「あー、えっと。丁寧でその気を遣われているといいますか……」
「ふふ」

 ユリウス様はいつもよりなんだか砕けた表情で私を見つめて言う。

「わかった。君はもう婚約者だからね。どうだい? 僕をもっと意識してくれるかい?」
「──っ!」

 急に大人の男といった感じの雰囲気や色気が漂って、私の頬が熱くなるのを感じる。

「効果あったみたいだね」
「破壊力抜群です……」
「あはは」

 そうしてお皿に乗ったドーナツのような丸い穴が開いたケーキを食べる。
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