王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~
「これ、うちの母もよく作ってくれたんですけど、なんていう名前ですか?」
「これかい? バーボフカだよ」
「ばーぼふか?」
「この国でよく作られているお菓子なんだ」
「美味しいですね! うちの母のはもう少し甘さ控えめでした」
「そうか、私も母上も甘さ控えめのが好きでね、よくメイド長に作ってもらっていたんだ」
「へえ~今度作ってみたいな~」
「僕にもくれるかい?」

 眩しい笑顔で懇願されると、断れるわけない……。
 もちろん、ユリウス様にも食べていただきたいな。うまくできたらだけど。

 ユリウス様はテーブルに頬杖をついて私にぐっと近寄った。

「僕はね、君と婚約できて本当に嬉しいよ。夢みたいだ」
「はいっ! 私もです」
「でも、君が元の世界やお母上を思う気持ちもわかる」
「……」
「だから、僕としては君を返したくないけれど、元の世界に戻れる方法を僕の一生をかけて探すよ」

 正直、この淡い恋心とお母さんに会ってぎゅってしたい気持ちと両方が混ざってる。
 好きに行き来できるようになったらいいのにな、なんて今は思ってる。甘い考えだろうけど。
 でも、確かに今私は目の前にいるこのサファイアブルーの瞳が輝く彼に心惹かれていて、傍にいたいと思うのも事実。だから……。


「ありがとうございます。私もあなたの傍になるべくいたいんです」
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