王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~
 あ……思い出した……。
 私は卒業式の日に神社で白い光に包まれて、気づいたら暗いじめじめとした鉄格子で囲われた部屋にいた。
 ハロウィーンの仮装でしか見ないような黒いフードを深くかぶった魔術師みたいな人がぼそぼそと何か呟いたら、ぱたりと現代の記憶がなくなった。
 代わりにあったのはここで18年間『リーディア』として過ごしたという『偽りの記憶』。
 侯爵家の生まれも、王妃とのお茶会も、エリク様との出会いも、そしてあの墓石に誓った婚約も嘘……。

 そうか、私は何者かに現代から異世界であるここに転移させられ、偽りの記憶を埋め込まれて「わたくし」になって一年を過ごしたんだ──
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