「ひきこもり王子」に再婚したら「憎悪しか抱けない『お下がり令嬢』は、侍女の真似事でもやっていろ」と言われましたので、仰せのままに従うことにしました
 恐怖とか不安など微塵もない。

 心を満たしているのが、恐怖や不安とはまったく真逆の感情であることに気がついた。

 うしろから上半身を包み込まれたまま、しばし静寂と安寧に身を委ねた。

 彼はわたしを抱きしめ、わたしの短い髪に美貌を埋めている。

 あたたかさがジワジワと体内に広がっていき、やさしさが心に滲みる。

 クロードのことを、あんなに腹が立ったり憎らしいと思っていたのに。ぶん殴りたいって思うどころか、ぶっ殺したいと思ったこともあったのに。

 そのとき、とんでもないことに気がついてしまった。
< 163 / 310 >

この作品をシェア

pagetop