わたしのスパダリな婚約者
「あの……わたしは人間ですし、わたしだって良くない気持ちを抱いたりしますよ?」
「だが決して人を傷つけたり悪し様にはしない」
……………それは、普通のことなのでは。
少なくとも意図してそういうことをしようとするような人間は少数派な気がする。無論、人を傷つけて悦に入るような人がいるのも理解しているけれど。
「優しくて、おおらかで、鷹揚で……それが誰であっても肯定的に受け入れて手を伸ばす。人の嫌がることには深入りせずにただただ見守っているのだと、そばに寄り添ってくれる存在が何故同じ人間だと思えるのか。そんな慈愛あふれる存在は天使か妖精か聖母としか思えないだろう」
「……………あの、何の話をしているのでしたっけ」
「君だ」
…………どうしましょう。クリス様の目か頭が何か新種の病魔に侵されてしまったらしい。
しかし澄んだ瞳で未だに頬やら髪やらを撫でているクリス様は正気に見える。もしかしてわたしの耳がおかしくなってしまったのだろうか。