あやかし学校
☆☆☆

音楽室の前まできても昨日のような寒気を感じることはなくて、ひとまず安堵して息を吐き出した。


これなら思う存分練習してから帰ることができそうだ。


真面目に集団下校した吹奏楽部の生徒たちには悪いと思いつつピアノの前に座る。


鍵盤の蓋を開けて指を這わせると自然と笑顔になれた。


「やっぱり家にもピアノがほしいなぁ」


でも、ピアノは高価な買い物になるからそう簡単に相談はできない。


学校のピアノを借りることができているだけで幸せだと思わないと。


今日弾くのは最近ずっと練習していたエリーゼのためにだ。


この曲はピアノを習っている人なら必ずと言っていいほど練習する曲で、長く習っている人なら簡単に弾いてしまう。


今はエリーゼノためにを楽譜を見ずに弾けるようになるのが目標だ。


鍵盤に指を這わせるようにして最初の音を鳴らす。


よし、いいぞ。


目を閉じていても楽譜が頭の中に浮かんでくる。


流れるように指が動き、体が自然と揺れ始める。


ピアノをしていないときはどうして演奏者の体が揺れているのかわからなかったけれど、それがごく自然な反応であることがわかった。
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