曖昧な関係のまま生涯告白などすることのない恋心
夢を諦めて
女優への夢は諦めて劇団を辞め大学に戻った。
必要最低限の単位は取れていたから、インテリアデザインの勉強を本気になって始めた。
必要な資格を取って卒業して、今の会社に入った。
有名なブランドショップから居酒屋まで、新規オープンのショップから改装まで、日本全国から仕事の依頼が入る忙しいデザイン事務所。
仕事は順調だった。
入社して十三年。大きな仕事も任されるようになっていた。
そして明日は大阪のファッションブランドの新装オープンの仕事。
私が抜ける訳にはいかなかった。
夕方、母から携帯にメールが来ていた。
伯父が亡くなったと……。
会いたかった。一目だけでも。可愛がってくれた伯父に。
ずっと昔、伯父が私に言ったことがあった。
「綾ちゃんが、亮輔のお嫁さんになってくれたらいいんだけどなぁ」と。
何気なく言った言葉だったんだろう。
平凡な幸せを選ぶことも出来たはずなのに……。
今の私には手の届かない遠い世界のように思える。
愛する人の傍に居て笑って泣いて、そして生涯愛されること。