曖昧な関係のまま生涯告白などすることのない恋心
声をかけられた義母は
「綾ちゃん、来てくれたの。ありがとう」
それは小さな頃から可愛いがってきた姪っ子に向ける優しい眼差しなんだと思った。
身内……。
血の繋がりには嫁という立場は、どんなに頑張っても太刀打ち出来ない。
そういうものなんだと義母の声だけで分かってしまうのが悲しかった。
私は私の立場で良い嫁だと思ってもらえるように振る舞うしかない。
私は知っている。かつて夫が従妹である綾さんを愛していたことを。
それは淡い恋心などではなかったことも。
亮輔さんと私は友人の紹介で知り合った。
彼は二つ年上でスーツが良く似合って素敵な人だと思った。
デパートで接客をしていたので人当たりも良く好感を持った。
今まで好きな人はいなかったんですか? と聞いたら
「いたよ。好きでも、どうしようもない事だってあるんだ」
寂しそうに見えた。その時の私には理由は分からなかったけれど。
それから三年付き合って私と亮輔さんは結婚した。周りの誰もが祝福してくれた。
彼の両親もお義兄さん夫婦もとても良くしてくれた。
子供も三人。夫は優しかったし不満などなかった。
三人目が男の子だと知って本当に喜んでくれた。
「この子が大人になったら一緒に酒を飲むのが楽しみだ」
生まれたばかりの赤ちゃんを抱いてそう言っていた。
結婚して十年。
子育てにも協力的で私は幸せなんだと思ってきた。
妻として母として私なりに努力してきたつもりだった。
お義兄さん夫婦が両親と同居してくれていて、義父も義母もまだまだ若くて二人で旅行をしたり新しい楽しみをたくさん作っていたところだったのに。
「夕方母から電話があって伯父さんが亡くなったと知って。明日の午後から大阪に仕事で行かなければならなくて。あさってまで帰れないから、今夜どうしても伯父さんに会いたくて……」
「ありがとうね。綾ちゃん忙しいのに、わざわざ来てくれて」と義母
「いいえ。小さい頃から遊びに来たり泊めてもらったりしてたから」
「そうだったなぁ」と
義兄は遠い昔を懐かしく思い出していたようだった。