曖昧な関係のまま生涯告白などすることのない恋心
従兄妹
「ごめんね。亮君、こんな時に……」
「気にするな。明日出張だろう。支度だってあるんだろう」
「そうだけど、伯父さんがこんな時に……」
「親父の傍には兄貴がいてくれるから大丈夫だよ。そういえば綾ちゃんに会うのは、おばあちゃんの葬式以来だったかな?」
「そうだっけ? この歳になると親戚と会うのもお通夜やお葬式だけになるよね」
「まだあるよ。結婚式。綾ちゃんは綺麗だから周りの男が放って置かないだろう?」
「そんなことないよ。その証拠に未だに独身だもの」
「付き合ってる人いないの?」
「今は特にいない。私、結婚には縁がなさそうだわ」
「俺、綾ちゃんは女優さんになるのだとばっかり思ってたよ」
「まさか……。劇団に居たのは確かだけど。そんなに簡単じゃないのよ」
「そうか。そういえば大学の時だったかな。
お正月に叔父さんと叔母さんと一緒に家へ来たことがあったよね」
「あぁ、うん。おばあちゃんが入院したって聞いてお見舞いに来た時ね」
「そうそう。あの時、俺の地元の友達が遊びに来たの覚えてる?」
「うん。三人? 四人くらいだったかな?」
「あいつらが綾ちゃんを紹介しろってうるさくて大変だったんだから」
「でも確かあの時、一緒にお茶飲んで暫く話したでしょう?」
「そういう意味じゃなくて、綾ちゃんと付き合いたいってことだよ」
「ええっ? でも彼女いるって言ってなかった?」
「二人はね。綾ちゃんみたいに綺麗な子だったら、いつでも別れるってさ」
「ひどい。だから男って信用出来ないのよね」
「俺も信用出来ない?」
「亮君とは従兄妹だから。小さな頃からよく知ってたし」
「俺が綾ちゃんを好きなのも知ってた?」
「えっ?」
「冗談だよ。もちろん従兄妹として好きだったってこと」
「それなら私も好きだったよ。亮君いつも優しかったし」
「そうか」
そうだよな……。
「そうよ」
そうに決まってる……。