曖昧な関係のまま生涯告白などすることのない恋心
女優志望
私は本気で女優を目指していた。
大学に通いながら有名な劇団の研究生として稽古に励んでいた。
一年が経ち準劇団員として名もない役ではあったけれど舞台にも立てた。
そんな時、テレビの連ドラの主役の話が舞い込んだ。
新人女優の登竜門とも言うべき長い歴史のあるドラマだった。
オーディションも最終まで残って
「ほぼ、君に決まりだから」と団長から聞いた。
団長は、有名な先輩俳優でもあり彼に憧れてこの世界に入った人も多い。
実生活でも独身で女性には、とても人気のある俳優だった。
この業界にもファンは多くテレビ局の女性プロデューサーなども彼の恋人の座、妻の座を狙っているという噂も聞いていた。
そんな団長に夜遅くまで稽古に付き合ってもらって、帰りに簡単な食事に二人で行ったところを劇団の先輩女優に見られた。
別に見られて困るようなことは何もない。
けれど噂が噂を呼び、ありもしないことを吹聴された。
私と団長が、ただならぬ仲だという根も葉もない噂が……。
それがテレビ局の女性プロデューサーの耳に入ったらしかった。
ドラマの主演は、別の事務所の新人女優に決まった。
悔しかった。悔しくて悔しくて一人になると泣けてきた。
デビュー前からスキャンダルなんて……。
もちろん週刊誌などに載った訳ではない。
この業界は怖い。
火が無くたって煙がたつだけでなく、大火事にだってなりうる。
大火事になってしまえば、火の元なんて問題じゃない。
火事が起きたという事実だけが全て。そんな世界だ。