曖昧な関係のまま生涯告白などすることのない恋心
半年後、そのドラマが始まった。
私が演じていたかもしれなかった役。
それから半年経って高視聴率で終盤を迎えた。
ドラマの撮影が終わったら主演映画の撮影が待っているそうだ。
複雑な気持ちだった。
きっと、まだチャンスはある。そう信じて劇団の稽古にも通った。
そんな時、私は先輩女優たちが話すのを偶然聞いてしまった。
「でも、あの子も可哀想にね。あんな噂がなかったら今頃……」
「まあ、仕方ないわね。団長と噂だなんて十年早いわよ」
「知ってた? あの女性プロデューサー、団長狙いだっていうの」
「もちろんよ。有名な話でしょう? まぁ御局様の御機嫌を損ねたら、この業界では生き残れないってことよ。あの子も身に染みたでしょう」
「でも個人レッスンだなんて、もしかしたら団長も気があるのかしらね」
「あの子、美人だから。いわゆる女優顔してるもの」
「団長の好みのタイプよね。本当に口説かれてるかもよ」
「そうね。生まれついての美人が羨ましいわよね」
「じゃあ、整形でもする?」
「まさか。私は個性派脇役を目指してるの。
主演女優を目指したこともあったけど」
「そんなに甘くないわよね。この世界は」
「本当、結婚でもするかな」
「誰とよ?」
「これから探すのよ。頑張って玉の輿にでも乗れたら、こんな世界、いつでも見限ってやるわ」
「乗れたらね?」
「失礼ね」
二人の楽しそうな笑い声が聞こえた。
私は、その場所からそっと離れて更衣室で着替え、まっすぐ家に帰ろうと思っていた。
外に出たところで、これからドラマの撮影に出掛ける団長と会った。
「綾ちゃん。明日の夜、ちょっと付き合ってもらえないかな? 稽古はいいから。食事の約束をしているから同席してくれる?」
「えっ? あぁ、はい」
「待ち合わせの場所は、明日の夕方電話するよ。じゃあ」
「はい。分かりました」
同席ってことは他にも誰か居るってことよね。
誰と約束しているんだろうか? なんだか気が進まないけれど……。
Tシャツとジーンズって訳にはいかないよね。
シフォンの五分袖ブラウスにミディ丈のティアードスカート。
待ち合わせの場所は、ホテルの中にある中華の有名店。
時間より早めに着くと個室に案内された。