素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる
◇◆◇


「ブレンダン、さん?」

 面会時間の終了を告げられ、やっとのことで腰を上げ、帰ろうとしたアリスは足を止めた。

 ブレンダンが、長い脚を組んで待合室に座っていたからだ。あの時に部屋を出て行った彼はもう帰ってしまったと思っていたから、アリスはその姿を見てひどく驚いた。

「や、帰り送るよ」

「え? あの、お仕事は?」

「これって団長命令なんだ。だから仕事の内」

 肩を竦めたブレンダンはあくまで優しい。衝撃を受けてアリスには時間感覚をなくしてしまっていたが、彼を長時間待たせてしまっていたことはわかっていた。

「あ、あのすごく待ったんじゃないんですか? ごめんなさい……私、気が動転してて、泣いてばかりで」

「……それは気にしなくて良いよ。僕は誰かを待つ時間って割と好きなんだ。それに泣き顔の君を誰かに見られたって聞いたら、絶対ゴトフリーが発狂するから、被害者は団長と僕の二人だけで良いよ」

 緊張感をほどくような冗談めいた言葉に、アリスは思わずふふっと笑ってしまう。彼はその外見が想像させる通り、女の子の扱いに良く慣れているようだ。

「……なんで待つの、好きなんですか?」

 ブレンダンは立ち上がってアリスの歩調に合わせて歩き始めた。

「言葉にしづらいんだけど、自分の元に必ず誰かが来てくれるからかな……宛もなく待つのは、すごく辛いけどね。ただ、今日は、アリスさんが絶対あの部屋を出てくるのがわかってた。だからかな」

 謎掛けのようなその言葉にアリスは首を傾げた。それを言った彼はまるで宛のない誰かを待っているようにも思えたのだ。
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