素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる
 横からアリスの顔を覗き込んだリリアは、ふふっと笑って鞄からハンカチを取り出すと鼻の上を拭いてくれる。

「もう、鼻汚れてるわよ。どこの煙突に入り込んでたの」

 どうやら埃にまみれた古い本達をひっくり返している内に汚れがついてしまったらしい。今までそんな顔で城の中を歩いていたのかと思うと、顔が赤くなってしまう。

「ありがとう。リリア」

「どういたしまして……あの、何があったか、聞いた方が良い? 聞かない方が良い?」

 リリアはいつもアリスの意向を聞いてから、必要なことを言ってくれる。感情に囚われず、冷静に状況分析が出来る彼女の示してくれる道はきっと最善だ。

 でも、自分のやっていることはきっと最善ではない。アリスだって、調合師が薬を作ってくれるのを大人しく待つのが最善であることは良くわかっていた。けれど、何もしないままに待てなかった。

 アリスはリリアに首を振ると、笑顔で言った。

「あのね、今頑張ってるから、また全部終わったら、話を聞いて欲しいの。それで、頑張ったねって言ってくれると嬉しい」

 それを聞いたリリアは、アリスと連れ立って外へと向かう道を歩き出した。
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