素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる

15 素直になれない理由

 アリスは優等生で模範生だった。

 喋るのも他の子供より早かったし、聞き分けも良かった。母に聞けばいつの間にか絵本を自分でめくっていて、文字を学習するのも早かったらしい。本が好きだったのはきっとその時からだ。いつも本ばかり読んでいて、手がかからなかったし、物心つく頃からずっと、大人の望む良い子であり続けた。それが良いことであると理解出来てからは、ずっとそうあるようにしてきた。

 大事な時に素直になれない理由は、別に何か特別な出来事があった訳じゃない。

 親に望まれるままに勉強をして、抜きん出て優秀なのが認められて、特別な特待生として高等学院へと進んだ。気がついたら、周りの皆は恋をして友情を深め、人としての情緒を育てていた。流れていく時間のどこかの瞬間で、それをはたから見て、良いなあとそう思ったことは覚えている。きっとこの時が、大きな運命の分かれ目だったのだと今では思う。でもそれに気がついたのは、恋もせず一生懸命に勉強をして、就職先として最難関である城で務める文官としての道が内定した頃だ。

 アリスの頭脳が優秀なのは皆知っているけれど、きっとその中身がこんなに幼いことを知っている人は少ない。
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